龍村晋の帯「伝匠名錦」

龍村晋は、芥川龍之介に「龍村さんの帯地の多くは、その独特な経緯の組織を文字通り縦横に活かした結果、蒔絵の如き、堆朱つゐしゆの如き、螺鈿らでんの如き、金唐革きんからかはの如き、七宝の如き、陶器の如き、乃至ないしは竹刻たけぼり金石刻きんせきぼりの如き、種々雑多な芸術品の特色を自由自在に捉へてゐる。」「龍村さんの帯地の中には、それらの芸術品の特色を巧に捉へ得たが為に、織物本来の特色がより豊富な調和を得た、殆ど甚深微妙とも形容したい、恐るべき芸術的完成があつた。私は何よりもこの芸術的完成の為に、頭を下げざるを得なかつたのである。」といわしめた父・平蔵の膝元で匠の技と感性を引き継ぎ、自らも90年の生涯を帯の制作一筋に打ち込みました。題材は日本はもとよりシルクロード、西欧と広く、比類ない独自の「伝匠名錦」を生み出しました。生涯を帯の創作一筋に打ち込み、その柄数は500柄に及んでいます。

「千年の生きた文様はこれからも千年の生命がある」との意匠に対する信念と「寸断の錦なげうつしぐれかな」の句が示している少しでも納得がいかなければどんな作品でも妥協せずに切り捨てるという気迫は、次の世代に伝える錦として「伝匠名錦」の中に織込まれています。

女性美の頂点「伝匠名錦」

前から見ても後ろから見ても美しい日本の着物。この着物姿の女性の美しさを際立たせる要素が「帯」と「帯結び」です。

古代より織物のの高貴は「錦」「綾」「羅」「綺」綺の順とされ、特に色糸と金糸を緻密に織り込んだ「錦」は最も貴重なものとして金と同様の扱いを受け、献上品として、また名物裂として珍重されてきました。

「伝匠名錦」とは古代裂の研究と復元に生涯をささげた龍村平蔵を父に持つ龍村晋が、その匠の技と芸術性を実用品としての帯に結実すべく創り上げた至高の帯の総称です。

芸術性と実用性の高さ、飽きることのないデザイン性(シルクロードや正倉院に由来する古典柄をテーマに流行に左右されることのない柄を織り上げております)、見て、触って、締めて味わえる感動は「伝匠名錦」ならではと言えます。